パスカル・ロジェのインストア・イベント・レポート!

登場合図を待つパスカル・ロジェ氏フランス・ピアニズムの名手パスカル・ロジェがTRITONからついにソロ・アルバムをリリース。ロジェさんが長年あたためていたアイディアで、エリック・サティと吉松隆の作品を交互に連ね、美しく夢のような物語をつづった「クリスタル・ドリーム」。

発売から約1ヶ月経った2月20日、渋谷のタワー・レコードにて貴重なトーク&ミニ・コンサートイベントが行われました!

 


素敵な黒の上下で現れたロジェさん。イベント開始と同時に、サティの名曲「ジムノペディ第1番」を演奏。独特のニュアンスとサウンドで会場は満たされます。


司会: さて、ロジェさんにとってエリック・サティをレコーディングするのは実に1983年から25年振りで、ファンにとっては願ってもない朗報なのですが、ご自身で心境はいかがですか?

ロジェ(以下PR): サティは自分の演奏キャリアの中でも何十年と付き合っている大切な友人です。今回、25年ぶりに録音したわけですが、時の経過とともに、まるでワインが熟成するように私の解釈や演奏方法、音色、全てが新しいものになっています。

司会: サティと吉松、二人の作曲家を交互に配置するという、今までにないアルバムの曲構成が実に独特の雰囲気を作り上げているように感じるのですが、いかがでしょうか?

PR: 吉松隆さんの作品との出会いは、もう6~7年前になるでしょうか、N響の演奏会に招かれてピアノ協奏曲を演奏した際、アンコールでサティの作品を弾いたのです。その後、オーケストラの方が「先ほど演奏したのは吉松隆ですか?」と言ったので、非常に興味を持ちました。フランスのサティと間違えられるサウンドを作り出す日本の作曲家がいる、ということにとても驚いたのです。
そして早速楽譜を買いに行って、ひとつひとつ演奏すると、確かにこの作曲家の作り出す音楽の世界とサティのそれとの共通点やつながりのようなものを見出したのでした。音色へのアプローチが近いというのでしょうか。夢を見るような不思議な世界はサティ特有のものだと思っていたのですが。そうして二人の作曲家を一緒にすることを思いついたのです。
特に私にとって、日本とフランスを融合するということはとてもうれしいことです。妻も日本人ですし(笑。このように二つの遠く離れた国、文化を一緒に合わせて、ひとつの素晴らしい作品が作れたと思っています。


演奏: 吉松隆「けだるい夏へのロマンス」


司会: 今回のアルバム「クリスタル・ドリーム」では、吉松「プレイアデス舞曲」から数曲、そしてサティの作品群から数曲選ばれていますが、選曲の意図などお聞かせ下さい。

PR: それは非常に難しい作業でした。まず私が行ったことは1枚のCDに収まるという時間的制限の中でどのように組み立てるか、という点です。そして、私が意図したことは、サティと吉松という作曲家たちをこっちにサティ、あっちに吉松、とただ並べるのではなく、ひとつひとつの作品に内在する音楽が結びついて、お互いを邪魔することなく一つの大きなラインを作ろうと思ったのです。あくまで私という個人の感覚ではありますが、一つのストーリーを組み立てるように。本や日本だったら漫画もありますが、一冊を通して読んではじめて新しいものを発見するような、そう、まるで旅をするように。「クリスタル・ドリーム」という旅路を皆さんに楽しんで頂きたかったのです。


演奏: サティ「グノシェンヌ第3番」-吉松「水に寄せる間奏曲」-「間奏曲の記憶」-「真夜中のノエル」
注)4曲がアタッカのように続けて演奏されました。


パスカル・ロジェ氏、演奏中司会: サティの作品のなかで一番のお気に入りは何ですか?

PR: 難しい質問ですね。やはり「ジュ・トゥ・ヴ(おまえがほしい)」でしょうか。この作品はフランス音楽としてとても有名なもので、もともと歌として作曲されましたが、サティのもつ2面性のとても大切なひとつを表現しています。サティは生前貧しかったので、フランスのキャバレーもしくはカフェでピアノを弾いて、生計の足しにしていました。「ジュ・トゥ・ヴ」はそういう意味で、典型的なキャバレーの音楽でありながら、素晴らしいクオリティを有しています。私がこの作品をとりわけ愛している理由は、「ジュ・トゥ・ヴ」はクラシックとか、ポピュラー音楽とか、そうした垣根やバリアを飛び越えて、どんな人でも親しめる魅力を持っていることです。みんなが楽しめる。全てを超えて、「楽しい」とか「うれしい」とかそうした感情を喚起する、素晴らしい音楽なのです。

司会: それでは、最後にエリック・サティによる「ジュ・トゥ・ヴ」を演奏して頂きましょう!


  演奏: エリック・サティ「ジュ・トゥ・ヴ」


生演奏の「ジュ・トゥ・ヴ」は圧巻で、演奏している間に人だかりはひとまわりも、ふたまわりも大きくなりました。
その優しい演奏は、CDに収められたお洒落でしかも深遠で絶妙なニュアンスに満ちた「ジュ・テ・ヴ」ともまた異なり、集まったたくさんの人々を歓迎するかのように、より明るく、遊び心に満ちたバージョンでした。まさに生きている音楽。生きている演奏。
40分ほどの短い時間の中で、ロジェさんはこんなにもたくさんの作品を演奏して下さいました。
今回のイベントのために、演奏する曲もご自身が構成し、また新たな「ストーリー」を作って今回イベントに参加してくれました。
「聴衆のみなさんに夢見るような素晴らしい瞬間を味わってほしい。」
長年第一線のピアニストとして世界の大舞台で活躍してきたロジェさんが、今、強く求めるのは聴覚、視覚、あらゆる感覚を駆使した演出と、聴衆のみなさんとできるだけ近い、親密な空間を共有できるエンターテイメント。今回のイベントも、たくさんのお客さんとのふれあいを何よりも喜んでいました。
今後も新しいアイディアと感動に満ちた素敵なエンターテイメントを用意して、来日してくれるでしょう。
新録音にもぜひぜひご注目下さい!


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フランス・ピアニズムの巨匠パスカル・ロジェが トリトン・レーベルにデビュー!

レコード芸術特選盤

Crystal Dream -サティ&吉松隆 ピアノ作品集-

パスカル・ロジェ(ピアノ)

[CD&SACD] OVCT-00052    *2ch+5ch Hybrid SACD
定価¥3,000- 税抜定価(¥2,857)